観光立国の実現に向けた議論が進む中、多くの自治体が直面しているのが「インバウンド受入れ」による経済効果と「住民生活の質の確保」という二律背反の難題です。この課題を克服し、「量」から「質」への構造転換を実現するため、次期観光立国推進基本計画の骨子が形成されつつあります。
観光客の増加に伴う交通混雑(オーバーツーリズム)や、疲弊する地方の二次交通。この深刻な課題を解決し、さらに地方誘客を加速させる鍵が、意外な「インフラ」にあります。DMOと地方自治体は今、手荷物国際配送サービスと連携した「手ぶら観光」を、単なる便利なサービスとしてではなく、**オーバーツーリズム対策と地方創生を同時に解決する「観光政策インフラ」**として戦略的に位置づけるべき段階に来ています。
1. 観光産業が抱える構造的なボトルネック
年7回開催される観光分科会では、観光が地方創生の切り札である一方で、深刻な課題が指摘されています。
A. 人手不足とコト消費の供給限界
地方誘客の鍵となるコト消費(体験型観光)は、ガイドなどの人的リソースに依存し、質の高い体験の提供回数・規模に限りがあります。
「ガイドの担い手不足について、ビジネスモデルの確立や他業種との連携を図るなど、人材の育成・発掘に向けた対応が求められる」
人手不足が続く中、コト消費に依存するだけでは限界があり、観光産業全体の生産性向上(AI・DXの活用)と、労働条件の改善(価格転嫁、二重価格の検討)が急務です。
B. 交通インフラの負荷と地方誘客の壁
主要空港への一極集中や、地方の二次交通(バス、タクシー)の脆弱性が、観光客と住民双方にストレスを与えています。
「手ぶらで観光ができるような取組を実施して、訪日観光客も地域住民も双方が交通機関に乗れるような施策を観光庁として示していく必要がある」
手荷物が交通インフラの「負荷」となっている現状を放置すれば、インバウンドによる**交通混雑(オーバーツーリズム)**は解消されず、住民の心証悪化に繋がります。
2. 手ぶら観光が構造的な課題を解決する
手荷物国際配送を政策的に推進することは、上記ボトルネックを解消する最も具体的なソリューションとなります。
1. モノ消費からコト消費拡大へのテコ入れ
手ぶら観光は、人手に依存しない**「モノ消費」**を先に確実に増加させる効果があります。
- 消費の促進: 荷物の制約がなくなることで、お客様は旅の途中で地域の特産品をためらうことなく購入し、配送することで確実に地域に資金を落とすことができます。
- リソースの集中: この安定的なモノ消費の収益を基盤に、限られた人的リソースを、価格転嫁がしやすい高付加価値なコト消費(アドベンチャートラベル、質の高いローカルガイドなど)の提供に集中できます。
- 生産性の向上: 配送サービスによる省力化・効率化は、現場の労働負荷を軽減し、観光産業の生産性向上と**「働いてよし」**の実現に貢献します。
2. 交通負荷の分散と住民QoLの確保
手荷物を公共交通から物流インフラへと政策的に分散させることで、住民QoLに直結するオーバーツーリズム対策となります。
| 課題(分科会意見) | 手ぶら観光による政策効果 |
| 交通機関の混雑 | 観光客の荷物を物流網へシフトさせ、通勤・通学時間帯のバス・駅の混雑を緩和。住民への直接的な裨益となり、観光の意義への理解を深める。 |
| 地方誘客と周遊 | 荷物からの解放は、国内線や二次交通の利用を促し、広域周遊観光を加速。「三大都市圏との宿泊数1:1」目標達成に貢献する。 |
| 持続可能性 | ストレスなく快適に旅ができるため、旅行者の満足度が向上し、リピーター確保という長期的な政策目標にも資する。 |
3. DMO・地方自治体が主導すべき戦略的投資
手ぶら観光を日本の観光のスタンダードとするため、DMOと自治体は以下の政策を実行すべきであると考えられます。
(1) 財源とネットワークの政策的整備
「DMO等の予算に関して、自治体からの拠出が難しいときにどう補填するか…国際観光旅客税財源、宿泊税財源…を活用していくなど様々に考えられる」
- 公的財源の活用: 宿泊税や国際観光旅客税などの財源を、手荷物配送のための公的なデポ拠点(集荷・配送拠点)の整備や運営支援(受付業務)に充てる。
- 広域連携の主導: DMOが主体となり、空港・交通事業者・物流事業者間の広域連携協定を締結し、地域の枠を超えた手ぶらネットワークを設計する。
(2) DXと効果の「見える化」
- システム連携の推進: 観光DXの一環として、予約システムと手荷物配送システムを連携させ、利用の利便性を高めるためのデジタル投資を加速させる。
- データによる説明責任: 手ぶら観光推進による**「交通機関の混雑緩和度合い」や「地域モノ消費の増加額」をデータで可視化し、観光振興が地域住民に裨益している姿**を明確に示す。
現在、国は補助事業として手ぶら観光を推進していますが、その多くは国内の環境整備や一時預かり支援に留まり、「国際配送」への直接的な取り組みや補助が不足しています。
今後、オーバーツーリズム対策と地方誘客の真の成功のためには、空港と宿泊施設、および国境を越えた配送網を円滑にするための政策的な財源の集中投入が必要です。
手荷物国際配送への政策的関与は、観光客に快適さを、地域住民に平穏と経済効果をもたらす、**持続可能な観光立国を実現するための最も賢明な「先行投資」**となるのではないでしょうか。
▶︎観光物流は「量」と「質」の両立の時代へ。
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